私が一番近かったのに…
「それは…、好きな奴とするのと、身体だけの関係は違うだろう!
俺、本当に最低だよな。彼女には申し訳ないことをしたと思ってる」

勝手に自己嫌悪に陥ってるし…。
もうこの人、本当に面倒くさい。

「はぁ。もういいよ。過去のことだし、なかったことにしてあげるよ。
でも、これからは浮気禁止だからね?もし、愁が浮気でもしたら、愁の大事な部分を切ることにするから。それなりに覚悟しておいてね」

一度掴んだ手網は離さない。もう私は逃げない。これから先の人生を、あなたと共に歩んでいきたい。お互いの手と手を取り合いながら…。

「なんか幸奈さん、強くなりました?俺、全く歯が立たないんですが」

「当たり前でしょ?あなたみたいな人を捕まえておくにはね、それなりの覚悟が必要なの。
もう離さないって決めたから、大人しく私に捕まっておきなさい。分かった?」

恐妻家の気持ちが今なら分かる。夫がダメ人間だから、妻がしっかりしていないとダメなんだ。
私はこれから愁のために、しっかりとした女性になろうと決意した。

「分かりました。以後、気をつけます…」

これは効果抜群かもしれない。完全に萎縮してしまっている。
まさか、こんなに効くとは思ってもみなかった。
結局、お互いに惚れた弱みというやつであろう。もう二度と大切な人を傷つけ、失いたくないから。

「分かったならよろしい。ご褒美をあげる」

愁の唇に優しいキスをした。これが恋人になってから初めてのキスだった。

「これで少しは元気になった?」

愁の顔が一気に真っ赤になった。どうやら不意打ちに弱いみたいだ。
こんなことくらいで照れるなんて、ちょっと可愛いなと思ってしまった。

「なったに決まってるだろう。ありがとな…」

今までずっと、この気持ちを上手く抑えきれないジレンマと闘ってきた。
まさか、こんな結末を迎えるとは思ってもみなかったが…。
たった一度の大きな間違いから、私達の関係は始まった。
もしあの時、間違えていなかったら、私達はどうなっていたのだろうか。
もちろん、間違えずに正しい道を選択する方がいいに決まっている。
それでも、私は間違えてもいいのだと知った。また一つ自分を成長させることができたのではないかと思う。
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