私が一番近かったのに…
◇
次の日、愁は告白された子と付き合い始めた。私はひたすら幸せそうな愁を、横目で見るだけになった…。
バイト中、彼女は愁の様子を伺いにやって来ては、お互いに目と目が合うと、軽く手を振り、微笑み合う。
羨ましいと思った。二人の関係性も。彼女の行動力も…。
彼女には、私が持っていないものを持っている。
もし、私も同じものを持っていたら、今頃私が愁と……。
結局のところ、憶測でしかない。どうなっていたかなんて、今となってみては分からないことだ。
彼女といる時の愁は、とても幸せそうで。そんな愁を見ているだけで、余計に胸が苦しくなり、上手く現実を受け入れることができなかった。
「お疲れ様でした…」
一足先にお仕事を終え、ササッと帰り支度を済ませて、一人で帰ろうかと思いきや、肩を思いっきり掴まれ、後ろを振り返ると、そこには愁が立っていた。
「待てよ。どうして黙って先に帰るんだよ?」
それは愁に彼女ができたから。当然、今までと同じようにはいかない。
「だって、彼女に悪いから…」
もう私のことは放っておいてほしい。彼女のことだけ構っていればいいのに…。
こんなの辛いよ。今は愁の顔すら見たくない。
「別に友達なんだから、気にしなくてもいいのに。俺は友達とも一緒に帰れねーのかよ…」
私の方が正論を言っているはずなのに、文句を言われてしまった。
惚れた弱みもあり、そんな愁を完全に突き放すことができなかった。
「ごめん。そうだよね。私達、友達だよね…」
それはまるで、自分に言い聞かせているかのようだった。
もう諦めるしかないのに、まだ心の中のどこかで期待している自分がいた。それを早く払拭させたかった。