私が一番近かったのに…
完全に一目惚れだった。一瞬で彼女に堕ちてしまった。
彼女は笑顔が明るい素敵な人で。俺の初恋だ。
今までの俺は、相手から告白されて、付き合うことが多かった。
そのせいか、すぐに別れることが多かった。
やることはささっと済ませていたので、短い期間のお付き合いではあったが、とっくに童貞は卒業していた。

フラれても、特に気には留めなかった。女なんて手に取るように簡単だと、斜に構えていたからである。
ただ、彼女だけは違った。初めてだ。こんなにも心が掻き乱されるのは…。
仕草や言動、全てが気になってしまい、小さなことでも彼女のことになると、常に目で追いかけてしまう。
彼女ともっと仲良くなれないかな。これは相当重症だ。早くどうにかしないと…。


           ◇


「店長。俺、病気かもしれません」

彼女のことで悩みすぎてしまい、挙句の果てに、バイト先の店長に相談してしまう始末だ。

「どうしたんだい?岩城くん。何かシフトのことで困っているのなら、相談になるよ。
こちらとしては、幾らでも調整可能だから、困ったことがあったら言ってね。休みがほしいなら、休んでも構わないからね」

寧ろその逆だ。休みなんていらない。彼女に会いたいから、少しでも多く彼女の傍に居たい。
彼女はモテる。入ってきたその日に、皆が話題にしていた。運良く俺が教育係になることができたが…。
もし、他の奴らが彼女の教育係になっていたら、俺の気が狂っておかしくなり、きっとそいつは俺の手により、帰らぬ人になっていたに違いない。

今はそんなことはどうでもいい。俺は本当にこのままで大丈夫なのだろうか。
せめて、大平さん呼びから、名前呼びになれたら…。早く他の奴らよりも先に距離を縮めたい。
そのために、何か良い方法はないのだろうか。
バイト先以外での接点がないため、このままではただのバイト仲間で終わってしまう。
もし、大平さんがバイトを辞めたりでもしたら、俺はきっと生きた屍になるに違いない。
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