私が一番近かったのに…
俺、こんな奴だったっけ?女に困ったことがないこの俺が、こんなことで悩む日が訪れるとは思いもしなかった。

「店長、俺、暫く休みは要らないです。その代わり、大平さんとシフトがたくさん被るようにしてください」

これはもう店長に向かって、大平さんのことが好きですと、告白しているようなものだ。
それでも構わない。俺の気持ちを知られることなんて、恥を忍んでの覚悟だ。

「分かったよ。そこは僕に任せて。それに岩城くんの病気が何なのかも、僕には分かったよ。
それはね、“恋煩い”って言うんだよ。上手くいくといいね。応援してるよ」

背中を押されてしまった。
店長の大人な姿勢を目の当たりにし、俺は男として尊敬した。

「あと、岩城くんに一つとっておきの情報があるよ。大平さんは岩城くんと同じ大学に通っていて、住んでいるアパートも近いよ。
まずは夜道が暗いから心配だし、一緒に帰るところから始めてみるのはどうかな?
差し支えがなければ、店長命令ってことにしておいてあげるからどう?」

俺はこの人には適わないなと思った。
そして、これから先もずっと頭が上がらないであろう。
パワハラだどうこう言われている時代で、俺は恵まれた上司に出会えた。
たかがバイトにここまで良くしてくれる人は、なかなかいない。

「お願いします!それだと、大平さんに警戒されないと思うんで」

俺がいきなり誘えば、きっと彼女は警戒してしまうはず…。
大平さんを見ていれば分かる。明らかに男慣れしていないということが。
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