私が一番近かったのに…
「愁、終わったから、一緒に帰ろ？」

あの日を境に、バイトが終わると、いつも一緒に帰るのが当たり前になっていた。
俺と一緒に居て、嬉しそうに笑ってくれる彼女の姿を見るのが、俺はとても嬉しかった。
そもそも先に惚れたのは俺の方なわけで。彼女からこんなふうに言われた日には、内心穏やかではなかった。
思わず気持ちが溢れそうになるくらい、緊張していた。

「あぁ。帰るか……」

今の俺はカッコ悪い。ここで素直に、『幸奈、お疲れ様。俺が送ってやる』なんて言えたらよかったのに。
今までできていたことが、彼女が相手になると途端にできなくなってしまう。
俺、こんなに不器用だったか？もう童貞じゃないはずなのに、振る舞いが童貞みたいになってしまう。

「今日のバイト、キツかったから疲れたよ。
あと、愁がフォローしてくれたお陰で助かった。本当にありがとう」

申し訳なさそうに謝る。彼女は何も悪くない。俺なんてバイト中なのに、幸奈のことしか見ていないとか最低だと思う。
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