私が一番近かったのに…
なんて言ったら、彼女に引かれそうで、怖くて言えない。
きっと彼女なら、引かずに受け止めてくれる可能性もある。
しかし、俺の中にある羞恥心が邪魔をし、意地を張ってしまう。

「感謝されるほどのことでもないよ。困っている人がいたら助ける。ただそれだけだ」

俺は君のことが好きだから、君が困っていると、真っ先に助けたいと思ってしまう。
仕事中だというのに、私情を持ち込むなんて最低だ…。
それなのに、助けたことを喜んでくれる彼女に、俺はどんどん惹かれていった。
もっと彼女の笑った顔が見てみたいと思った。

「その気持ち、よく分かるかも。もし、愁が困っていたら、私も真っ先に助けたいって思うもん」

何の気もなしに、彼女はそう言った。
そこには特別な意味合いなどはなく、綺麗で真っ直ぐな想いだった。

「だろ?だから、あまり気にするな。また困ったことがあったら、幾らでも助けてやるからさ」

照れているのを誤魔化すかのように、頭に触れた。そんな不器用な俺の動作にも、彼女は嬉しそうに笑顔でいてくれる。
俺、彼女のことが大好きだ。もっと彼女のことを知りたい。

「なぁ、今度、一緒にどこかへ出かけないか?」

もちろん二人っきりで。君をもっと独占したい。

「いいよ。愁と出かけたい」

その時は俺の気持ちを伝えるから。覚悟しておけよ。君を誰にも渡したくはないから。


          ─END─
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