私が一番近かったのに…
「分かってくれれば、それでいい。一緒に帰るぞ」

「うん、分かった」

「ごめん。ちょっと待ってくれ」

早く帰りたかったが、仕方がないので、愁を待つことにした。
愁を待っている間、考え事をしていた。ずっと後悔している。あの日のことを…。
諦めたいはずなのに、まだ諦めきれずにいた。いい加減、愁のことを忘れたいのに…。

「お待たせ。帰ろうぜ」

愁はニコニコしていた。それもそうだ。私の気持ちなんてお構いなしに、自分の気持ちを優先させたのだから、(さぞ)かし気分が良いに決まってる。
それに、今は可愛い彼女もいるので、浮かれずにはいられないのであろう。

「うん、帰ろっか…」

いつものように私の手を掴んできた。私は咄嗟にその手を離した。
他の女性に触れた手で、私に触れてほしくなかった。

「どうしたんだよ?何かあったのか?」

「ねぇ、愁。私の話をちゃんと聞いて」

一旦落ち着くために、深呼吸をした。
よし。これで大丈夫。今なら落ち着いて話せそうだ。

「なんだよ。急に改まって……」

「あのさ。女の子を一人、夜道で歩いて帰らせるのは危険だと思う。
だから、一緒に帰るのは、まだ許されると思う。
正直に言ってしまえば、私も一緒に帰ってくれる人がいるのは、とても助かる。
でもね、手を繋ぐのはダメだと思う。今、愁には可愛い彼女がいるんだよ?彼女に申し訳ないとは思わないの?」

あの時、私がちゃんと付き合わないでほしい…と言えていたら、この手を振り払う必要もなかった。
でも、今は違う。これが現実なんだ。私達は友達以上になってはいけない。だからこそ、線引きはちゃんとしておきたいと思った。

「ごめん、俺が悪かった…」

今にも泣き出しそうな顔をしていた。
寧ろ泣きたいのはこっちの方だ。愁の彼女になりたいのに、もうなれないのだから。
< 30 / 346 >

この作品をシェア

pagetop