私が一番近かったのに…
「別にいいよ。次はもうしないでね」

本当は手を繋ぎたい。強引に私の手を奪って、今すぐ彼女と別れてよ…。
でも、きっとそんな願いは届くはずもなくて。私の心の中だけの秘密にしておくことにした。

「もうしねーよ。彼女のこと大切だし」

大切…か。その言葉がほろ苦く心の中に大きく広がっていった。

「そっか、大切なんだね。羨ましいな、彼女さんが…」

いい加減、私の想いに気づいてよ…。
もうフラれたも同然なくせに、懲りずにまだ好きでいる自分が、心底嫌いだ。

「さては幸奈、もしかして、彼氏が欲しいのか?」

彼氏なんて要らない。私は愁が欲しい。

「うーん、今はまだいいかな」

できることなら、あんな女なんかに愁を渡したくなかった。
もしまだ可能性があるのなら、今すぐにでも愁を奪い、私のモノにしたい。

「なんだよそれ…。でも、今はまだ幸奈に彼氏ができないでほしいな」

どうして、そんなことを言うの?今の私に期待を持たせるような言葉なんて言わないでよ。
神様はどうして、こんな意地悪をするのだろうか。私が何回もチャンスを棒に振ったから?

「何それ。意味深なんですけど」

「別に深い意味なんてないよ。もし、幸奈に彼氏ができたとしたら、こうして一緒に帰ることもできなくなるから、それはそれで寂しいなと思って」

こうして、一緒に帰れなくなるのは、勿論、私だって寂しい。
私だって、愁との繋がりがなくなるのは嫌だ。絶対にこの繋がりを失いたくない。
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