私が一番近かったのに…
愁に利用されたことに、きっと傷ついているに違いない。
俺だって、好きな人にあんな仕打ちを受けたら、トラウマになると思う。
詳しいことはよく知らないが、いくら女の子からの提案とはいえども、利用するなんて酷い男だ。
そんな酷い男の親友で、しかも背中を押してしまった俺が言えた義理もないが…。

元々、彼女は二人の間に入り込めるような人ではなかった。
分かっていても諦めきれず、二人の隙間に入り込もうとし、失敗した。
臆病者な俺からしてみたら、凄く勇気がある人だと思う。
だからこそ、彼女のことが気になってしまったのかもしれない。自分にはないものを持っているから。
今は早く愁のことを忘れて、彼女が元気に過ごしていることを願うのみだ。


           ◇


「「あっ…!」」

偶然、近所のスーパーで愁の元カノに遭遇してしまい、思わず声が漏れてしまった。

「えっと…、こんにちは」

何度もうちのお店に遊びに来ていたので、一応、顔見知り程度ではある。

「どうも、こんにちは…」

向こうは気まずそうにしていた。
それもそうだ。元彼が働いていたお店の人が、声をかけてきたのだから。

「あれから元気?大丈夫?」

なんて聞いても仕方のないことを聞いてしまった。
俺が聞いたところで、答えてくれるはずもないが。

「大丈夫…です。いつかはこうなることを覚悟していたので」

思ったよりも強い人みたいで安心した。
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