私が一番近かったのに…
どんな生き物がいたかなんて、全く覚えていない。
それくらい、彼女のことばかり気になってしまった。

「あのさ、そろそろお昼にしない?」

雰囲気を変えたかった。緊張していることを彼女に悟られたくなかった。

「そうですね。小腹も空きましたし」

彼女がこちらの意図を察してくれたお陰で、昼食を摂る流れになった。
きっとどんなに隠そうとしても、彼女には俺が緊張していることはお見通しだったと思う。
そんな俺に気を使ってくれて、流れを変えてくれたのかもしれないと思うと、男を立ててくれる彼女に優しさを感じた。
絶対に大事にしたいと、よりそう思えた瞬間だった。

「よかったら、この水族館のレストランにしない?」

好きな女の子とのデートなので、事前にちゃんと下調べをしておいた。
この水族館のレストランを選んだのは、雰囲気が良さそうだと思ったからである。

「はい。喜んで」

笑顔で喜んでくれた。好きな子に笑顔になってもらえるだけで、俺は幸せだと感じた。
まだ彼女は俺と手を繋いでくれている。今日この後、最後の試練が待ち受けているのかと思うと、途端に緊張してきた…。

「それじゃ、レストランへ行こう」

繋いだ手をまだ離さずに、彼女をエスコートした。
少しでも彼女にカッコいいと思ってもらいたいからである。

「はい。よろしくお願いします」
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