私が一番近かったのに…
◇
海辺に着くと、まだ肌寒いせいか、殆ど人はいなかった。
水族館の帰りに海デートといった、カップルがちらほらいる程度であった。
もれなく俺達もその中の一組のカップルに過ぎなかった。
天候に恵まれたお陰で、今日は快晴だ。こんな晴々とした空の下で見る海は、格別に綺麗に見えた。
「レストランから見る海も綺麗だったけど、間近で見る海はもっと綺麗だね」
隣に居るのが彼女だから、いつもより海が綺麗に見えるのかもしれない。彼女も同じ気持ちなら嬉しい。
「そうですね。とても綺麗です…」
ずっと海を眺めているのも悪くないが、このままでは彼女に告白するチャンスを逃してしまいそうなので、本題へと移ることにした。
「せっかくの綺麗な海を眺めているところで申し訳ないんだけれども、さっき話したいことがあるって言ったの覚えてる?」
彼女は首を縦に頷いた。忘れないでいてくれたのが嬉しかった。
「俺の話したいことって、実は幸保に伝えたいことがあって。
それで今日、デートに誘ったんだ。今から幸保に伝えたいことを言うね」
深呼吸をしてから、話し始めた。
「飯田 幸保さん、俺と付き合ってください」
頭を下げ、右手を差し出した。
どうか再びこの手を取ってほしいという願いを込めて…。
「まだ和樹さんのことをよく知りませんが、これから知っていきたいと思ってます。
なので、こんな私でよければ、よろしくお願いします」