私が一番近かったのに…


           ◇


休憩が終わってから、ずっと上の空だった。幸いミスをすることはなかったが、頭の中はずっと愁のことばかり考えていた。

「お疲れ様でした。幸奈、気をつけて帰れよ。
それじゃ、お先に失礼します」

上機嫌な様子から察して、皆にすぐにバレた。
「彼女とデートか?」なんて質問攻めにされても、愁は嫌な顔など一切せず、「はい!泊まりです。」と笑顔で答え、「エッチなことするんだろう?」…なんて茶化されていた。
羨ましい。私も茶化される相手になりたかった。

「大平さん、お疲れ様。愁から話は聞いてるかな?俺が大平さんを送ってくことになってます。
俺はもう支度が終わってるんだけど、大平さんはもう帰り支度は終わってるかな?」

同僚の中山くんが、珍しく私に声をかけてきた。
どうやら、愁の代わりに送ってくれる人は、中山くんのようだ。
誰に送ってもらうのか、事前に聞かされていなかったので、中山くんだと知り、少し驚いた。

「うん、もう大丈夫だよ。今日はわざわざ愁の代わりにありがとう。助かります」

「いえいえ。寧ろ暗い夜道を大平さん一人で帰らせるわけにいかないし。
あと、大平さんと話してみたいって思ってたんだよね」

私と…?中山くんとは仕事上だけの付き合いなので、意外な展開に頭が追いつけなかった。

「警戒しないで。俺が大平さんと話したいのは、愁のことだから」

中山くんが話したい愁の話って一体、どんな話をしたいのだろうか。
私が一番愁のことを知っているものだとばかり思っていた。
この口振りから察するに、あまり良い話ではない予感がした。
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