私が一番近かったのに…
「ありがとう、嬉しい」

…なんて素直に想いを伝えてしまった。これでは好きだということが丸分かりだ。それでも彼は微笑んでくれた。
そんな私に手を差し出し、そっと頭を撫でてくれた。その手の熱が身体中を巡り、私の顔はゆでダコ状態になった。

「そんなに顔を真っ赤にされると、俺も照れる…」

彼の顔も赤くなり、こういう時、どんな反応をしたら正解なのか、恋愛経験値が低い私には分からなかった。
今にして思えば、この時から二人の恋は動き始めていたのかもしれない。
私がもっと素直に想いを伝えていたら、今頃何か変わっていたのかもしれない。
ふとあの頃が懐かしくもなり、羨ましくもなった。
未来のことなど分からない私は、こんな思いもよらないチャンスが訪れ、見事作戦を成功させたのであった…。


           ◇


「大平さん、こんな時間まで働かせちゃって、本当にごめんね。女の子だから、帰り道が心配だな」

すっかり連絡先を交換したことで頭がいっぱいになり、完全に浮かれてしまった。
気づけば夜も深い時間で…。いつもなら、遅くなりそうなタイミングで、店長が気を利かせて、早く帰らせてくれる。
変質者などがいたりするため、夜道は危険で。特に女の子は狙われやすい。
事件へと発展しないためにも、女性陣は早く帰らせてもらえる。
それに年齢的にもまだ未成年だ。未成年な手前もあってのことなのであろう。

そんな店長が、いつもより早く帰らせてくれなかったということは、今回ばかりは上手く人を回せるほど、余裕がなかったということになる。
長引かせてしまったことを、店長は申し訳なさそうにしていた。
私としては仕方のないことだと思っていたが、ここで店長自らまさかの提案をしてくるのであった…。
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