私が一番近かったのに…
「へー。それなら彼女とすればよかったのに…」

たっぷり嫌味を込めたニュアンスで、言い放った。
こんな分かりやすい挑発に、愁が上手く乗ってくれるとは思わないが、少し愁を試してみたくなった。
どんな状況であっても、私を選んでくれるのかどうか…。
あまり期待はしていないが、それでも私を選んでほしいという淡い期待を込めた。

「そうしたいのは山々なんだが、今日は幸奈としたい気分なんだよ」

期待なんてしていなかったのに、どうして私を選んでくれたの?
それなら、このまま彼女と別れて、私を彼女にしてほしいよ…。

「幸奈としてる時が一番気持ちいいんだよ。身体の相性が一番いいから」

それ以上、深い意味などないと分かっていたはずなのに…。
私は心の中のどこかで、本当はこの言葉に深い意味があるのではないか?と期待している自分がいた。

「彼女とのセックスは、気持ちよくないの?」

もしかしたら、彼女よりも勝てる何かが欲しかっただけなのかもしれない。
だから、こんな不毛な質問をしてしまったんだと思う。
それに、こんな質問答えづらいに決まってる。それでも愁は、私の質問に答えてくれた。

「気持ちいいけど、幸奈としてる時の方が気持ちいいんだよ。思わず止まらなくなっちまうくらいに…」

どうして期待させるようなことばかり言うの?
愁はいつもズルい。こうやって私をたくさん惑わしていく。
その度に、私ばかり好きになっていく。そして愁は、そんな私を知らない。私が愁の言葉一つひとつに、たくさん心を動かされているということを…。
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