私が一番近かったのに…
あまりの苦しさに逃げ出したくなったり、この関係をどうしたらいいのか分からず、戸惑ったりもした。
それでも結局、愁の傍に居たいと思う気持ちが強くて、傍を離れることができずにいた。
今の私は何もかも中途半端で、迷ってばかりだ。
このままでは(いず)れ自滅するかもしれない。
そうなる前に、早めにこの関係を終わらせなければならない。
でも、私はこの関係を断ち切る方法を知らなかった。

「そういうの反則。可愛いすぎるんだけど…」

今も尚、そうであった。キスで簡単に口を塞がれてしまえば、完全に愁のペースに流されてしまう。

「早く扉を開けて。今夜はたくさん愛し合おう」

キスをされたことにより、身体の力が抜け、熱を帯び始めていた。
やる気なんてなかったはずなのに、やっぱり好きな人に求められてしまうと、抗えないのであった。

「待って。今、鍵を出すから…」

夏も終わり、秋へと季節は変わり、一気に冷え込んできたため、寒さがより増してきた。早く家の中に入って暖まりたい。
鞄の中にある鍵を素早く取り出し、玄関の扉を開けた。
扉が開くと同時に、愁はすかさず部屋の中へと入っていった。

「お邪魔します…」

「どうぞ。散らかってるけど」

約束もなく急だったため、綺麗にすることができず、散らかったままだ。
そういえば、初めて愁が家へ訪れた時も、こんな感じだったな…なんてことを、ふと思い出した。

「幸奈はそう言いつつも、ちゃんと綺麗にしてるんだよな。
今だってそう。全然汚くねーじゃん。寧ろ綺麗だぞ」

「そうかな?自分としては、もう少し綺麗に片付けたいんだけどね」

愁の前では完璧でありたい。好きな人の前だからこそだ。
それに、親元を離れて一人暮らしをしているため、自分のことは自分でやらなくちゃいけない。
少しずつではあるが、家事をやれるようになってきた。自分でやれることを、もっと増やしていきたい。
だからこそ、できるようになったことは、もっとできるようになりたい。
なので、なるべく早く自立できるように努力している。
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