私が一番近かったのに…
「愁って、いつも突然お仕掛けてくるよね」

気まぐれに訪れては、私の心を掻き乱していく。
その度に、私がどんどん好きになっていくことなんか、お構いなしに…。

「そうか?そんなに毎回、急にお仕掛けてはいないと思うんだが…」

どうやら、本人にはその自覚がないみたいだ。本当にそういうところが憎たらしくもあり、同時に好きなところでもある。

「うん。いつも急にお仕掛けてくるよ。本当、愁は自由人だよね」

何を考えてるのか正直、よく分からない。
ただ、友達や仲間だと思った人を、とても大切にするということは知っている。
愁の中で、仲間や友達は特別な存在みたいだ。そういった価値観で、ずっと生きてきたのかもしれない。

愁の中で彼女の存在は、どのぐらいの割合を占めているのだろうか。私より特別なのだろうか。
世間一般であれば、本来そうでなくてはならない。
でも、こうやって彼女より私の方を優先されると、期待してしまう。

早々、物事が自分の都合良く動くとは限らないと分かっていても、勝手に期待してしまう。
愁なりに彼女のことを大切に想っていることは間違いないが、それでも愁の態度や言動は自分勝手で、人の気持ちを一切考えていないように感じる。
全部、愁のせいだ。自分の都合しか見えていないから。
それでも、愁の態度や言動に振り回されてしまう私なのであった。

「全然、自覚がなかった。俺、そんなに自由人だったのか…」

天然人誑しだ。そうやって自覚もなく人を惑わすんだから。その気もないくせに…。

「別にいいんだけどね。一緒に居られるのは嬉しいから」

「へぇー。嬉しいんだ。俺と一緒に居られることが」

バカにしないでよ。私はあなたのこと、どれぐらい好きだと思ってるの?
叫びたいこの気持ちに蓋をしているため、言えないのがもどかしく感じた。

「当たり前でしょ。愁は私と一緒に居られて嬉しい?」

誘導尋問みたいなことを聞いてしまった。こんなこと聞いたって何の意味もないのに。
愁の言葉が欲しかった。心にある不安を取り除くために…。
< 60 / 346 >

この作品をシェア

pagetop