私が一番近かったのに…
「嬉しいよ。俺、幸奈と一緒に居ると、安心するんだ」

いきなり愁に片腕を掴まれたかと思いきや、リビングのテーブルの下に敷いてあるラグの上に、私は押し倒された。
そういえば今日、愁とセックスをするって、約束していたことを思い出した。
こんな状況下であっても、相変わらず私は呑気であった。
徐々にこういった行為にも慣れ始めていき、もう一々、動じたりなどしなくなった。
仮に動じたところで、そこに愛が存在しないと分かっているため、わざわざときめく必要など、ないのであった。

「幸奈とこうしていると、幸奈が俺の腕の中にいるんだなって実感できるから、俺は安心するんだ」

今度は濃厚なキスをされた。さっきのような口を塞ぐようなキスではなく、私の脳を甘く蕩けさせるようなキスだった。

「そういう顔も、他の男には見せたくないって思っちまう。もっとその顔、俺にだけ見せて?」

どうして花火大会の時、私は好きだと伝えなかったんだろう。
そしたらきっと、こんなに辛い思いなんてせずに済んだのに……。
愁の口から零れ出る甘い言葉は、特に深い意味などなくて。ただの雰囲気作りの一環に過ぎない。
どんどん虚しくなってきた。胸はこんなに痛いのに、どうして身体は勝手に反応してしまうのだろう。

私と愁のセックスは、本能の赴くままに、お互いに欲しい時にだけ求め合う…といった、快楽的な行為でしかなくて。
あまり深く考えないことにした。そうしないと、やっていられないから。
そうしていくうちに、段々と自分の気持ちを切り離して、物事を冷静に捉えられるようになってきた。
それはきっと、私がセフレという立ち位置をよく理解し、自分がなるべく傷つかないように、上手く自己防衛ができるようになってきたのかもしれない。

「もっとあなたが欲しい……」

「そんなふうに男を惑わして、どうするんだよ?煽った責任を取ってもらうからな」

愁の目つきが一気に変わった。色っぽい目で私を捉える。これからが本番なのだと、本能で感じ取った。
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