私が一番近かったのに…
「ありがとう。忘れないでいてくれて…」

愁は優しくて、素直で。でも不器用な人で。
伝え方は相変わらず下手だが、好きな人が自分との思い出を覚えていてくれていただけで充分だ。

「幸奈は俺をどんな奴だと思ってるんだ？俺はお前の初めてをもらった男だ。忘れるなんて酷いこと、するわけないだろう。
お前もそんな男には、抱かれたくないだろう？」

確かに愁の言うことも一理ある。そんな男に抱かれたいとは思わない。
でも、私は愁のセフレだから、覚えているはずがないって思っていたからこそ、嬉しいと思わずにはいられなかった。

「そうかもしれないけどさ、愁も覚えててくれたら嬉しいな…って思っただけ」

これ以上、踏み込んではならない。私はセフレという立場だから。
私に許されていることは、身体を重ねることだけ…。
確認ぐらいなら、大丈夫なはず。ちょっとぐらいなら我儘だって…。
たまには私も愁を独占したい。愁が嫌じゃないと思う範囲内で…。

「なんだ。そういうことか。そういえば、あの時もこのベッドだったな。そんなことを忘れるくらい、幸奈とはもう何回もしてるんだな……」

一回してしまえば、後はもう身体が勝手に求めてしまっていた。
いつの間にか、バイト終わりにすることが当たり前になっていて。
でも、いつかは終わりを迎えてしまう日がきてもおかしくないと思った。

「俺はこのベッドを見る度に、可愛い幸奈の顔ばかり思い浮かぶよ」

愁がそんなことを想像していたなんて思わなかった。
嬉しかった。たくさん自分のことを思い浮かべてくれていることが…。
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