私が一番近かったのに…
「か、可愛いって…、恥ずかしい……」

「幸奈はずっと可愛くて純粋なままだな」

可愛い…?純粋……?もう…反則だよ。不意打ちにそんなこと言わないでほしい。心臓に悪いから。

「もう…からかわないでよ」

「からかってないけど。俺の中では常に幸奈のことを可愛いって思ってる。
それぐらい分かれよ。お前は鈍感すぎる……」

再び愁が覆い被さってきた。そして、強引にキスしてきた。

「キスをして、そんな顔をされれば、男なんてバカなことしか考えられなくなるんだよ。
幸奈が俺をそういう気分にさせてるって、いい加減分かってくれよ…」

自分の表情一つで、こんなにも愁が求めてくれることが嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。

「もういいよ。聞いた私がバカでした」

「これでよーく分かっただろう。男なんて大抵、狼だってことを…」

愁が私で余裕をなくしている。そんな表情を見て、私は愁を愛おしいと思った。

「それはよく分かったけど、可愛くて純粋なままってのはどういうこと?」

「言葉の意味そのままだよ。いいか?これを機にちゃんと覚えておけよ。
俺の中で、幸奈の印象は出会った時からずっと変わらないままだってことを…」

それなら、好きだっていう気持ちも、ずっと変わらないままでいてほしかった。
なんてことを思ってしまうのは、少し欲張りなのかもしれないが…。

「うん。分かった。肝に命じておく」

変わらないという言葉が、私の心を締めつけた。
それはまるで、この関係性がずっと平行線であるかのように感じたから。

「なぁ、それより、そろそろ…いいか?」

乗り気な愁に対して、私の心はどこかに置き去りにされたままでいた。
でも、気持ちをすぐに切り替えた。今、私がここにいる役目を果たすために…。

「いいよ」

「幸奈、ありがとう。それじゃ、遠慮なく抱かせてもらうな」

私の心とは裏腹に、身体は愁をすんなり受け入れた。
でも、心は少しずつ痛みが化膿しているような気がした。
私はその痛みを掻き消すかのように、愁との情事に没頭した。
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