私が一番近かったのに…

「幸奈、悪いんだけど、俺、今日はもう帰るわ。昨日の夜、最中に彼女から着信があったみたいでさ、幸奈が寝てる間にかけ直したら、デートすることになった」

あれ？おかしいな？昨日のあれは一体、何だったのだろうか。私の思考はそこで一旦停止した。
何となくではあるが薄々、どこかで違和感を感じていた。
いつもならば、お互いに裸でベッドの上に寝転がっているというのに…。
今日に限っては、既に愁の身支度が整っていた。その時点で気づけばよかったんだ。
私って本当にバカだな。さっきまで幸せな気持ちだったはずなのに、一気に崖っぷちまで引き戻された気分だ。

今すぐにでも、その場から立ち去りたいと思った…。
幸せなんて思っていた自分が恥ずかしい。特別扱いされて、舞い上がっていた自分が情けない。
この距離が歯痒い。心の中で悲鳴を上げていた。何かが壊れるような音がしても、見て見ぬ振りを続けた。
そうしないとやっていられなかった。今は少しだけそんな自分に疲れていた。

「そうなんだ…。へー。昨日はあんなこと言ってたのに、なんだかんだラブラブじゃん」

嫌味を言わずにはいられなかった。今の私には心から素直に応援することなんて無理だ。
それに今、物凄くイライラしている。このままではまずい。心の声がダダ漏れになってしまいそうだ。

「まぁな。だって俺のために色々と尽くしてくれるから。そんなところが、俺は好きだな」

私もたくさん尽くしてきたはずなのに…。
どうして、この想いは届かないの？一度は好きになってくれたんじゃなかったの？
手を伸ばし続けても、もう届かない。私は今、世界中で誰よりも一番惨めな女に思えた。

「そんじゃ、また後で。今日も一緒にバイト頑張ろうな」

そそくさと帰ってしまった。愁、待って。私を置いてかないで…。
分かっていたはずだ。こういうこともあるってことを…。
私に見向きもしない彼の姿が、頭から離れなかった。
悔しい。こんな想いするなら、セフレになんかならなきゃよかった。

｢…愁のバカ……っ、｣

バカは私の方だ。愁に当たっても苦しいだけなのに…。
どうして私は、こんなバカなことをしてしまったのだろうか。
あの時、きっぱりフラれていた方がマシだったのかもしれない。
そしたらきっと今頃は、笑って友達として傍に居られたかもしれない。
次第に気持ちも薄れて、好きじゃなくなって…。