私が一番近かったのに…
「本当に大丈夫?あんまり一人で抱え込まえずに、俺で良かったらいつでも頼ってね。お詫びに今度、ご飯奢るからさ」

中山くんは優しい人だ。きっと中山くんみたいな人を好きになっていたら、楽だったのかもしれない。
正直、今すぐにでも愁を好きでいるのを止めてしまいたいくらいだ。
誰かを好きでいることが、こんなにも苦しいなんて知らなかった。
だからこそ、早く終わらせて、楽になりたいと思った。

しかし、ここで関係を終わらせてしまえば、愁との関係は終了だ。
そうなることを想像してみたら、途端に怖くなった。
未だに最後の一歩が、なかなか踏み出せずにいた。

それに比べて、中山くんはとても良い人だ。中山くんなら、私の話を聞いてくれるかもしれない。
私は今、自分の気持ちを全部、誰かに話して、楽になりたいと思った。中山くんみたいな優しい人に…。

でも、それはできない。きっと私の気持ちを聞いてしまったら、中山くんは責任を感じてしまうに違いない。
だからこそ、中山くんには責任なんて感じてほしくなかった。私が望んでこの関係を選んだから。
絶対に中山くんには言えない。知らない方が彼のためになる。
彼を苦しめないためにも、このことは秘密にしておくと誓った。
それにこの関係は、大っぴらに人に話せるような関係ではない。
秘密は秘密のままにしておいたほうが、いいこともあるので、黙っておくことにした。

「中山くん、私のことを気にかけてくれてありがとう。
でも、お気持ちだけで充分だよ。本当にありがとうね」

彼の気持ちを無下にするのは心苦しいが、今の私は精神的に極限状態であったため、冷静に物事を判断する余裕すらなかった。
心に余裕を持ちたいのに、どうしても愁のことばかり頭に浮かんでしまう。なかなか頭の中から消えてはくれなかった。
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