私が一番近かったのに…
「あの…えっと、岩城くん、よろしくお願いします」

初めて彼と一緒に帰るので、緊張している…。
こんな偶然、店長のお陰だ。延長してくれてありがとうございます…。

「うん。任せて。…初めてだね、一緒に帰るの」

首を縦に頷くことしかできなかった。私はあまりの緊張で、上手く喋れなかった。
そんな私を察してか、岩城くんは気を遣って、たくさん話しかけてくれた。

「大平さん、俺と近所だったんだね。
…ってことはここから家、近いの?」

「あ、うん。近いよ。だからここにしたのもあるの」

いつもより暗い夜道。街灯がついているが、やっぱり少し時間が遅くなるだけで怖いなと思ってしまった。

「そっか。実は俺も。大平さんはどこに住んでるの?」

岩城くんの方から興味を持ってくれることは少なかった。
いつも会話を広げようと、私が勝手に必死になっていたのもあるが、こんなに質問攻めしてくる彼は初めてのことだった。

「えっと…、サンパレスっていうアパート知ってる?」

その単語を聞いた途端、彼の表情が一気に変わった。
どうやら、岩城くんは知っているみたいだ。

「知ってるよ。俺、そこのアパートの向かいに住んでるから」

どうしてこんなにご近所さんな上に、同じアルバイト先で働いているというのに、今まで一度も遭遇することがなかったのだろうか。不思議なこともあるものだ。
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