私が一番近かったのに…
なら、ここはせっかくだし、ご厚意に甘えて、愁に奢ってもらうことにした。

「ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいます」

「おう。俺に任せておけ。まぁ、そもそも女の子にホテル代を払わせたりなんかしないけどな」

男のプライドというやつであろう。
私はそのプライドに、花を持たせてあげることにした。その方が愁が喜ぶからである。

「実は少し前から、もっと激しいプレイがしてみたいって思ってたから、ラブホへ行こうかなって考えてたんだ。
ほら、あんまり激しいとうるさくなるから、ご近所さんに迷惑になるし、幸奈ん家じゃ難しいだろう?
それに、たまには贅沢するのも悪くないかなって思ってさ」

学生が一人暮らししているようなアパートだと、どうしても壁が薄い賃貸が多いため、隣人の生活音が聞こえてくることが度々ある。
今まで散々、家でしてきたとはいえ、やっぱり音は気になるものだ。
もし、ホテルだったら、いつもとは違い、気にせずにもっと声が出せる。
愁がずっと気にかけてくれていた。その心遣いがとても嬉しかった。

「うん。たまには悪くないかもね」

二人の体温が最高潮に上昇した。抑えきれない熱を冷ますため、そのままホテルへと直行した。


           ◇


初めてのラブホに、私は戸惑っていた。
どうやら、部屋を選んでから、入るみたいだ。それがとても新鮮に感じた。
しかも部屋の中の雰囲気が、いかにもといった感じで。
慣れない雰囲気に、なんだか心が落ち着かなかった。

「何キョロキョロしてんだ。今更緊張してんのか?ったくお前はしょうがねーな」

愁の顔が真っ赤なのを見て、愁も緊張しているのだと知った。
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