私が一番近かったのに…
「おい、真似すんなよ。まぁ、いいけど」

真似してみたのは、半分冗談みたいなものだ。
なんとなくではあるが、愁ならそう言ってくれるのではないかという、根拠のない自信みたいなものがあった。

「お前の気持ちはよく分かるよ。俺は幸奈に対して、根拠のない自信?!みたいなものがあるから」

「根拠のない自信って…?」

「上手く説明するのは難しいが、簡単に説明すると、俺は何があっても、お前のことを信じていられるっていう、安心感みたいなものを強く感じているんだ。
つまり、お前のことを信用してるってことだ。これでもお前のことを頼りにしてるんだからな」

それは私も同じだ。何があっても愁は私の味方でいてくれると信じている。
それは私にとって、愁が大切な存在だからである。

「愁の気持ち、私もよく分かるよ。だって、私も同じ気持ちだから」

こんなふうに、お互いを信じ合えているというのに、どうしてまだ上手く運命の歯車が合わないのだろうか。神様。どうか私に愁をください。
…なんて声は虚しく。『別れる気はない』と宣言されている以上、現実を覆すことは難しい。
絶対に愁は彼女と別れないと思う。見ていれば分かる。

時々、バイト先に彼女が訪れた時に見せる愁の表情と、私に見せる愁の表情は明らかに違う。
そんな光景を見る度に、胸が苦しくなる。そこにいるあなたの彼氏と、あなたが知らないところでセックスしてるの。
何度もそう叫びたいと思った。仮に叫んだとしても、ただ虚しいだけだ。立場上、私の方が分が悪くなるだけだからである。

だからこそ、そんな惨めな思いをしないためにも、感情に左右されたくなかった。
彼女に負けたくないという対抗心があった。そもそも勝ち負けなんて存在しないし、勝手に対抗心を燃やされても困る話だ。
それに、愁を困らせたくない。愁の傍に居たい。
しかし、いつまでも黙って指を咥えて待っていられるほど、気持ちを制御できないところまできていた。

「これからもたくさん幸奈に頼らせてもらうから」

私は彼女の代わりに抱かれる女。所詮、二番目にもなれない女。玩具に過ぎない。
分かっていたことなのに、こんなにも胸が苦しくなるなんて思わなかった。
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