私が一番近かったのに…
「もう。人ん家を勝手にホテル代わりにしないでよ」

「してない。それに今日はラブホだからセーフだ」

そういう問題ではない。どうしてこうも上手く伝わらないのだろうか。
愁にモノみたいに扱われていることが、嫌だと伝えたかっただけなのに…。

「そうじゃないけど、もういいや。なんだかバカらしく思えてきたから」

「なんだよ。言いかけて止めるとか、お前、性格悪いぞ?」

誰のせいだと思ってるの?と言いかけた言葉を引っ込めた。
いいよ、別に。性格が悪くても。どんなに上手く取り繕っても、振り向いてもらえないから。

「別に。私は性格が悪いもん」

「怒んなよ。冗談だろ?俺が悪かった。ごめんなさい」

私が拗ねれば、ご機嫌を取るために、すぐに謝る。
真剣に怒っているわけじゃないのに。ただ愁が私のことを玩具みたいに扱うのが嫌なだけなのに。
自分から望んでおいて、いざそういう扱いを受けると、相当ショックで。
気づかないうちに、どんどん欲張りになっていた。

「怒ってないから安心して。私は愁に頼ってもらえて嬉しいよ。
これからも遠慮せずに、頼ってくれて大丈夫だから」

この想いが届かなくても、傍に居られなくなるよりはマシだ。
だから自分の気持ちは押し殺して、ずっと愁の傍にいる道を選択した。
忘れちゃいけない。私と愁の関係はあくまで友達。それ以上でもそれ以下でもない。
多くを望んではいけない。多くを望めば、自分の首を絞めるだけだから。

「もちろんそのつもりだ。お前も無理すんなよ」

優しく頭の上にポンと手を置き、そっと頭を撫でられた。手の温もりが私の心の棘を丸くしてくれた。

「旅行、楽しみだな。早く計画を立てようぜ。冬休みも近いからな」

もうすぐ冬を迎える。あの夏祭りから数カ月が経過していた。
私はずっとあの夏祭りから取り残されたままだ。
冬が近いことに気づかないまま、ずっと夏で時が止まっていた。
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