私が一番近かったのに…
胸が痛い。胸焼けしそうなレベルだ。
幸せそうに彼女の話をする愁に、目が眩みそうになる。

「なんだよ、それ。ごちそうさまですって」

「そんなに彼女の話ばかりされれば、こっちはもうお腹一杯で胸焼けしちゃいそうだよ」

決して惚気ている自覚など、一切ないのであろう。
いつの間にか気づかないうちに、こんなにも彼女のことを好きになっていたのかもしれない。
だとしたら、既に遅かったというわけだ。もう私が入りこむ隙間なんて一切ない。
私を好きだったことは、愁の中ではもう過去のことになっているみたいだ。

「ふーん。少しくらいヤキモチ妬いてくれてもいいのに」

今、このタイミングでそんなことを言うのは反則だ。どんどん私ばかり好きになっていく。

「愁は私にヤキモチ妬いてほしいの?」

試すような聞き方しかできない。どうして私にあんなことを言ったのか、真意が知りたい。
きっと深い意味なんてないに決まっている。その場のノリだけに過ぎない。
それでも、私はあなたの気持ちが知りたかった。

「妬いてほしいに決まってるだろうが。但し、幸奈だけは特別。幸奈以外の女はめんどくせーから嫌だけど」

あれ?彼女は?と思ったが、彼女は比べるまでもないってことであろう。
だって、彼女が嫉妬することは、当たり前の特権だから。
彼女に対しては、もっと優しく丁寧に甘えさせてあげているのかもしれない。

「へー、友達なのにいいの?愁、忘れてない?私が愁のこと…、」

言いかけて、途中で止めた。これ以上は言ってはならない。言ってしまえば、この関係が終了してしまうから。

「俺のことがどうなの…?」

この顔は分かった上で、わざとこちらに問いかけている顔だ。
言わせないように牽制し、違う答えを言わせようと仕向けている。

「大事に思ってるってこと。大切な友達だから、そういうこと言われると困っちゃうなって思って」
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