私が一番近かったのに…
「そう?これでもまだまだ働き足りないって思ってるよ?」

「コラ」

デコピンされた。痛かった。愁の心配する気持ちが伝わってきた。

「息抜きも大事だっていい加減、分かれよ。倒れたら元も子もないだろう?もう少し自分のことを大事にしろよ」

息抜きなんて忘れていた。だって気を抜いてしまえば、一気に気持ちが重くなってしまうような気がして。気を張っていないといられなかった。

「息抜き…ね。肝に命じておくよ」

「本当に分かってるのか?まぁ、それはさておき。幸奈の方は、無事に休みをもらえると思う。常に頑張ってるからな」

こういう時、愁はよく頭を撫でる。これはもう愁の癖だ。
私は愁の癖が大好きだ。こういうことをされるのが、弱いってことを分かった上で、絶対にわざとやっているに違いない。
愁の触れる手の温もりの熱に、私は絆されていく。

「俺も頑張らないとなぁ…」

「愁だって頑張ってるから、両方無事に休みがもらえると思うよ」

「そう言ってくれてありがとうな。
よし。俺も休みが貰えるように頑張るわ」

早朝、ラブホのベッドの上で、何回目か分からない情事を行った後、遊ぶ約束を交わし、お互いにアルバイトを頑張ることを誓った。
そして、数時間後にはまた、同じ職場へと向かうのであった。

「そんじゃ、また後でな」

「うん。また後でね」

次の約束があることが、今の私の支えになっていた。
彼女になれないのなんて、とっくのとうに諦めたことだ。
今は旅行のことだけに集中しよう。それだけで今は充分だ。大丈夫。まだ隣で笑っていられる。
愁との旅行が楽しみでもあり、怖いとも感じつつ、でもやっぱり内心浮かれずにはいられないのであった。
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