私が一番近かったのに…
「そんじゃ約束な?」

気が早い。まだ来年の話だというのに。
愁は約束を形にするタイプなので、約束を交わす時、必ずといっていいほど、指切りを交わすことが多い。

「もちろん」

来年も隣に居られたらいいな…なんて密かに心の中で願った。
もしかしたら、その時になれば、二人の関係が変わっているかもしれない。
身体の関係が解消されて、ただの友達に戻っているか、或いは恋人になっていたりなんかして…。
予測できない未来を想像したところで、どうなるかなんて、その時になってみないと分からないものだ。
今は目先のことだけに集中すると決めたばかり。集中しないと…。

「ごめん。勝手に決めて悪いんだが、バスで行こうと思ってて。それで構わないか?」

学生の一人暮らしなんて、大半の人間が貧乏生活である。
仕送りを送ってもらっているとはいえ、大半は家賃や光熱費、食費などに消えていく。
基本的に大学生はお金がないため、遊ぶお金が欲しいからこそ、アルバイトをしてお金を稼いでいるようなものだ。

「うん、大丈夫だよ。色々と探してくれてありがとうね」

「そこは俺に任せろって言っただろう。
だから、幸奈が気にすることはない」

頭を撫でられた。どうやら照れているようだ。
愁は大抵、照れくさい感情を隠したい時に、頭を撫でる癖がある。私に褒められて、嬉しかったのであろう。

「うん。だから完全にお任せ状態だったよ。愁のこと頼りにしてるので」

「こういう時だけ上手いこと言いやがって。
…まぁ、嬉しいからいいけど」

今度は隠さずに、ちゃんと照れてる。本当に愁は分かりやすい。
でも、肝心なことに気づけない私は、鈍感でバカだけど。

「そう?それならいいけど」

嫌じゃないならそれでいい。不快な思いだけはさせたくない。愁が私と一緒に居て、楽しいと思ってくれることが一番だ。
楽しませることができなくなってしまった時、私はセフレでいる意味がなくなってしまう。
だからこそ、一言一句が大事になってくる。これからも気をつけようと思う。捨てられないためにも。

「それで旅行先なんだが、京都へ行くのはどうだ?」
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