三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
「今は……いつでも大丈夫」
「じゃあ、今度の土曜でもいい?」
「いいよ」
 沙耶が答えると彼はうれしそうに、良かった、と言った。

「待ち合わせは11時でいい? 一緒にお昼を食べよう」
「わかった」
 待ち合わせ場所を決めて電話を切ったら、すぐにクローゼットを漁った。
 それから数時間、鏡とにらめっこを続けた。



 彼より先に、同窓会のあったその日のうちに友人の深津雪絵(ふかつゆきえ)から電話をもらっていた。今でも連絡をとりあい、帰省したときには一緒に遊んでいる小学校以来の仲のいい友達だ。
「沙耶ー! 久しぶりー!」
 電話をかけてきた雪絵は少し酔っているようだった。声がふらふらしている。

「あんたの初恋の人、来たよー!」
「ちょっと!」
「大丈夫、今はわたし一人だから!」
 雪絵はけらけらと笑った。相変わらずの笑い方に、なんだかほっとする。後ろから電車の案内が聞こえる。きっと駅にいるのだろう。

「でね、連絡先を聞かれたから、教えておいた。近いうちに連絡あると思うよー」
 どきっとして、言葉が出なかった。が、沙耶のことなどかまわず、雪絵は続ける。

「あんたがずっと初恋をひきずってたの、知ってるからさ。この際はっきりさせなよ」
「はっきりって……」
「告白だよ、告白!」
「やめてよ、酔っ払い!」
「酔ってまーす!」
 雪絵はまたけらけらと笑った。

「彼だってあんたのこと気にしてたんだから、逆に告白されたりして」
「そんなことありえないよ!」
 彼から連絡が途絶えたのだからそんなことあるわけない。それに、仲が良かったのは15年も前の話だ。
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