三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
「どうだかねー。いい男になってたよ。女どもが群がっててさあ、ただでさえ彼、御曹司じゃん? もう目の色変えちゃってさあ、昔は馬鹿にしてたくせに。あ、もちろん彼は相手にしてなかったよ。安心した?」
「やめてってば」
だが、確かにちょっとほっとした。雪絵はどこまで本気で言っているのかわからないのだが。
「男の子たちもさ、昔はいじめてたくせに急に親友面して今日はお前のおごりな、とか言い出して。ほんとイライラしたわ。ある意味で来なくて正解だったよ」
雪絵の言葉に小学生時代のことが蘇り、胸に苦いものがよぎった。
目に怒りをひそめながら、尚仁はいつもそれに耐えていた。ときにやり返すこともあったが、それはよほどのときだった。
クラスメイトは巻き込まれるのを恐れ、最初は彼女たちもまた胸を痛めながら傍観していた。
「連絡とれなくなって、ずっと気にしてたんだって。あ、これ以上は本人から聞いたほうがいいかな。あと、さっちーもマキもみんな元気だったよ」
そこから少し、彼女が乗る電車が来るまで話をしてから切った。
雪絵のあいかわらずの元気さに、うれしくなると同時に自分の現状と比べて悲しさが混じった。
小学生のころはこんなことになるとは思っても見なかった。
大人になったら自然としっかりして毎日働いていつかお嫁さんになって、と漠然と思っていた。
だが、実際には結婚などしていないし、仕事を失い、27歳になる現在、恋人すらいない。雪絵には初恋をひきずっているとからかわれたが、案外それは的を射ていた。
男性とつきあったことはあるのだが、長続きしなかった。やっぱり頭の片隅にずっと尚仁がいるのだ。
***
思い出の中の尚仁はいつも笑っている。
だが、初めて会ったときの彼はむっつりと黙り込み、なにかに耐えるようにクラスに現れた。
尚仁は転校生だった。6年生のとき、夏休みが開けたら新しいクラスメイトとして紹介された。
半端な時期の転校に、無責任な噂はすぐにまわった。
「あいつ、愛人の子供なんだって」
「だから母親と2人暮らしなんだって」
「父親に捨てられたらしいよ」
転入直後からクラスメイトにひそひそと陰口を叩かれていた。
「やめてってば」
だが、確かにちょっとほっとした。雪絵はどこまで本気で言っているのかわからないのだが。
「男の子たちもさ、昔はいじめてたくせに急に親友面して今日はお前のおごりな、とか言い出して。ほんとイライラしたわ。ある意味で来なくて正解だったよ」
雪絵の言葉に小学生時代のことが蘇り、胸に苦いものがよぎった。
目に怒りをひそめながら、尚仁はいつもそれに耐えていた。ときにやり返すこともあったが、それはよほどのときだった。
クラスメイトは巻き込まれるのを恐れ、最初は彼女たちもまた胸を痛めながら傍観していた。
「連絡とれなくなって、ずっと気にしてたんだって。あ、これ以上は本人から聞いたほうがいいかな。あと、さっちーもマキもみんな元気だったよ」
そこから少し、彼女が乗る電車が来るまで話をしてから切った。
雪絵のあいかわらずの元気さに、うれしくなると同時に自分の現状と比べて悲しさが混じった。
小学生のころはこんなことになるとは思っても見なかった。
大人になったら自然としっかりして毎日働いていつかお嫁さんになって、と漠然と思っていた。
だが、実際には結婚などしていないし、仕事を失い、27歳になる現在、恋人すらいない。雪絵には初恋をひきずっているとからかわれたが、案外それは的を射ていた。
男性とつきあったことはあるのだが、長続きしなかった。やっぱり頭の片隅にずっと尚仁がいるのだ。
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思い出の中の尚仁はいつも笑っている。
だが、初めて会ったときの彼はむっつりと黙り込み、なにかに耐えるようにクラスに現れた。
尚仁は転校生だった。6年生のとき、夏休みが開けたら新しいクラスメイトとして紹介された。
半端な時期の転校に、無責任な噂はすぐにまわった。
「あいつ、愛人の子供なんだって」
「だから母親と2人暮らしなんだって」
「父親に捨てられたらしいよ」
転入直後からクラスメイトにひそひそと陰口を叩かれていた。