天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
『露木の野郎、香椎さんに気に入られようとしてるのが見え見えなんだよ。そのくせ、俺たちのことは下に見てバカにしてる』
まだ付き合いたての頃、自分より先に露木さんが機長昇格訓練に入ったことが気に食わなかったらしく、昇さんは頻繁に彼の悪口を言っていた。
多少、嫉妬や羨望が混じっていたにしても、露木さんが傲慢で性格の悪いパイロットだという印象を植え付けられるのには十分だった。
『いくら露木さんにバカにされたって、昇さんも大変な訓練を乗り越えて副操縦士になったんだから、自信を持って。いつか、露木さんを超えるパイロットになればいいんですから』
愚痴を聞いて励ますくらいしかできなかったけれど、昇さんには前を向いていて欲しかった。……その反面、会えば露木さんの話ばかりする彼に、少なからずうんざりしていたのも確かだ。
そして、半年前。露木さんが機長の資格を得ると同時に、昇さんはとうとう腐ってしまう。
『露木が俺を蹴落としたんだ。アイツのせいで、俺の人生はめちゃくちゃだ……』
お酒に酔った昇さんから、そんな内容の電話がかかってくることが増えた。