天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 嵐さんは優しいのに、私がひとりで拗ねているだけ。このままではどんどん自己嫌悪のループにはまってしまう。

 タクシーの窓に映った自分の顔を見つめ、しっかりしなさいと声に出さずに語り掛ける。

 父と母、それに杏里さんや真路さんも言っていたじゃない。夫婦には、歩み寄りと努力が大切。悩みはひとりで抱え込まない。きちんと言葉で伝える、って。

 なのに今の私は、ひとつも実行できていない。

「嵐さん」

 ようやく彼に呼び掛ける勇気が出たのは、マンションに着いてから。

 玄関を上がってすぐの廊下で彼を振り返り、その目をジッと見つめる。

「どうした?」
「あの……抱きついても、いいでしょうか?」

 思った以上に力んだ声が出てしまった。

 顔も赤いだろうし、眉は頼りなく下がっているだろうし、たぶん今の私はとても不細工。

 だけど、嵐さんの前ではカッコつけてばかりいられない。情けない自分をちゃんと見せられるのも、夫婦にとって大事なことだと思うから。

「いいに決まってる。おいで」

 優しく目を細めた彼が、両手を広げる。私は頭でごちゃごちゃと考えるのをやめ、その腕の中にまっすぐ飛び込んだ。

 嵐さんの腕が、私の背中を力強く引き寄せる。

 
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