天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
頭上で嵐さんがクスクス笑っているのが聞こえる。
優しい彼のことだから、馬鹿にしているわけではない……はず。
「ありがとう。ただ、自分から言い出しておいてなんだがバレンタイン当日は仕事だった気がするな。紗弓は?」
「え、と……か、確認します!」
動揺しすぎて、すぐに予定が出てこない。スマホが入ったバッグを探してキョロキョロすると、廊下の端で横倒しになっていた。
バッグの所在もわからなくなるほど嵐さんとのキスに夢中だった自分が恥ずかしい。
「私は十四、十五と連休ですね」
「そうか……希望休でも出しておくんだったな。俺は確かバレンタインの日から国内線乗務の連続で、最後のステイから帰るのは三日後だ。週末はそのまま連休だけど」
「でしたら、私たちのバレンタインは週末にしましょうか。私は仕事ですけど早番なので帰りは遅くなりませんし」
スマホのカレンダーを睨み、最善の日を提案する。
「了解。紗弓って回りくどい言い方が好きみたいだけど、今のはロマンチックでいいな。『私たちのバレンタイン』」
私の下手なオブラート発言に彼も気づいていたらしい。にっこり微笑んで、私の放ったフレーズを繰り返す。