天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「そうですか……?」
「ああ。お互いにとって大切な記念日にしないとって、気合いが入るよ」
「も、もしもがっかりさせてしまったらすみません」
私はごく一般的な体型で、胸が大きいなど取り立てて魅力があるわけでもない。
セックスの技術や才能に至っては、まったくない気がしている。
好きな人と肌を触れ合わせるのは心地いいけれど、前の恋人である昇さんとの行為では自分が〝彼が気持ちよくなるためのいれもの〟になったような感覚が拭えなかった。
自信のなさから俯いていると、彼の両手がそっと私の頬を包み込み、瞳を覗かれる。
「がっかりなんてするわけない。紗弓を今以上に深く知れることが、なにより幸せなんだ」
「嵐さん……」
「それに、きみを抱いたらこの想いにもっと自信が持てるような気がしてる。その時は、もう一度……」
する、と頬を滑り落ちた指先が、今度は私の手を取って、薬指のある部分を撫でる。
それが指輪を意識する場所だったので、ドキンと鼓動が鳴った。
「紗弓に改めて結婚を申し込むよ。契約だけの繋がりじゃない、本当の家族になってくれと」
心を射るような強い眼差しに、胸が震える。
「はい……っ」
まだ、予告だけで本当に言われたわけじゃない。だけど嵐さんの心が少しずつ変わり始めているのはわかる。
私たち、ちゃんと夫婦になろうとしてる……。
そんな実感に感極まって瞳を潤ませた私は、泣き顔を隠すように彼に抱きつき、愛しい香りを胸いっぱいに吸い込んだ。