天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 彼が羽田のタワーで働く管制官であることは、嵐さんから事前に聞かされていた。

 ふたりの出会いも、パイロットと管制官たちの交流会でのことだったそう。

 普段から広瀬さんの冷静かつ的確な無線指示に一目置いていた嵐さんから声をかけ、偶然同い年であったことから意気投合し、友人関係になったのだとか。

 とはいえお互い忙しいので、ふた月に一度お酒を飲めればいい方だそうだ。

 その話を聞いて、他の空港より滑走路の運用が複雑な羽田で次々に離着陸する飛行機をさばく、エリート系の航空管制官をイメージしていた。

 しかし、目の前にいる彼からは、少々違う印象を受ける。

 私と夏希が呆気に取られていると、嵐さんは困った我が子にそうするように、ポンポンと広瀬さんの頭を叩いた。

「ま、見ての通り人見知りなヤツなんだ。管制の時は別人になるけどな」
「そんなことはない」

 お冷やから口を離した広瀬さんが、ボソッと反論する。

「嘘をつけ。無線からたまに舌打ち聞こえてくるぞ」
「それな……よく上司に怒られる」

 かと思えば、しゅんと首をうなだれる広瀬さん。どうやらとても個性的な人のようだ。

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