天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「いや、なんでもない」
そう言ってすぐに穏やかな表情に戻ったけれど、「そろそろ行こうか」と、私に背を向けてしまう彼に、壁を感じた。
どうして急にそんな態度になったのかわからないが、なんでもないというのは嘘だろう。
ご両親の事故のこと以外にも、まだ私に話していないことがあるのだろうか。
もしかしたら、またひとりで重い荷物を背負おうとしてる?
そういう時は私の方から歩み寄り、無理やりにでも彼の心をこじ開けろというのが先輩方からのアドバイスだ。
恐れずに、彼の心に触れたい。
少し先を歩く彼の背を追いかけ、軽く足を速めたその時――バッグの中で、スマホが震える。
取り出して通知を見ると、登録外の番号からのショートメールが届いていた。
軽く訝しむものの、前に昇さんから届いたメールの発信元である番号は受信拒否の設定をしてあるし、警察にも相談済み。
開いても怖いことはないはずと信じ、受信ボックスを開く。
【紗弓は露木にも警察にも騙されてる。奴の本命は成沢ノアだ。 昇】
また、昇さんなの……?
〝警察〟というワードが登場していることから察するに、一度は警告を受けたらしいが、懲りずに新しい番号を取得して連絡してきたようだ。