天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
日付を見ると、十三年前の九月に書かれた古い記事だ。
ざっくりとそう計算した後で、西暦で示されたその年が特別な年であることに気づき、心がざわっと波立つ。
「事故のあった年……?」
九月ということは事故から二カ月が経った頃だ。事故の事実も、それに伴う悲しみもまだ受け止めきれていないであろうそんな時期に、ノアさんが書き記したブログ……。
彼女本人が書いた確証もないのに、その信用性を確かめることよりも、記事の内容を見たい好奇心に負けてしまう。
指を素早く動かして、本文を目で追った。
【Aの訓練は今日もコワいくらい完璧。事故直後は飛べなかったけれど、今は全然平気な顔をしてる。空を飛んでいる時はそのことにだけ集中できるからいいみたい。その気持ちは、私にもよくわかる】
Aとは嵐さんのことだろう。悲しみの中でも過酷な訓練に立ち向かう過去の彼を想像し、胸が締めつけられる。
彼も、そして同じように事故でご両親を亡くしたノアさんも、訓練だけが救いだったのだろう。
特に嵐さんは、ご両親が遺したメモもあったし……。
【だけど、訓練の後のAはいつも荒れちゃう。それがわかってるから、ひとりにしたくない。だから今日も、私の部屋に一緒に帰ってきて、傷だらけの羽を重ねたよ。こうして慰め合うことができるから、私たち、男と女でよかったって思う】