天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
彼女を愛し、見つけたもの――side嵐
「なるほど。紗弓さんが手を合わせている目の前のお墓が、もし自分のものだったら……思わず、そんな想像をしたんだな」
「はい。傲慢な考えかもしれませんが、彼女に自分を失わせたくない。そう思ってしまって……せっかく彼女と本物の家族になろうとしていた気持ちに、今、セーブがかかっている状態なんです」
薄暗いバーのカウンターで肩を寄せ合うのは、先輩機長である真路さんだ。間もなく四十歳とは思えない、若々しい容姿をしている。
香椎さんが鬼なら、真路さんは仏。いつも穏やかに後輩パイロットたちを導いてくれる、頼もしい存在だ。
先月、彼とベテランCAの涼野さんとで香椎さんの家を訪れ、ささやかな新年会をしたらしい。
その時実家に帰っていた紗弓と会って、俺たちの結婚生活についても話をしたそう。
後日真路さんからその話を聞くとともに、『香椎さんの娘に粗相があったら大変だから、結婚生活の悩みがあったらいつでも聞くよ』と言われていたのだった。