天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
自分の家族が、ある日突然帰らぬ人となる。毎日大勢の人が利用する、安全と信じていた乗り物で。
酸素マスクと救命具を身につけていたとしても、高度一万メートルの空から落下していく時、どんなに怖かっただろう。
痛くはなかっただろうか。せめて、機体が海面叩きつけられる前に、意識を失っていてくれたら。
そんなふうに、事故のさなかの状況を想像しなかった遺族はいないはずだ。……かつての俺のように。
しかしそんな残酷でやるせない想像など、もう二度と誰にもさせたくない。
「そうだよな。つまり、他の誰でもなく自分の手で安全運航を実現したいってことだ。パイロットなら誰でも持っている気持ちだけど、露木の場合はそれが人一倍強い」
「はい。その通りだと思います」
「それと同じくらい強い気持ちで、フライトのたび、ちゃんと無事に紗弓さんのところへ戻ろうって、そうは考えられないか?」
俺は傾けていたグラスを戻し、考える。自分の手で、飛行機を安全に飛ばし、また同じ場所へ帰ってくる。……紗弓のもとへ。
もちろん、そうしたい気持ちは山々だ。
だけど、万が一のことがあったら――。
家族を失った身としては、どうしても最悪の想定をしてしまう。