天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
真路さんは長いこと沈黙する俺を一瞥し、気持ちを軽くするようにふっと笑う。
「難しいか。実際に事故で肉親を失っている露木には、きっとそう思えるまでにいくつものハードルがあるんだろうね」
「ハードル……そうかもしれません」
そもそも、特定の女性を想うことを俺は意識的に避けてきた。
だから、紗弓との初対面では彼女への淡い好意を胸にしまっておくだけにとどめたのだ。
結局は再会とともに彼女に惹かれ、ハードルをなぎ倒すようにして結婚まで申し込んだわけだが……その後も、紗弓は一つひとつ、俺がハードルを越えるのを待ってくれている。
なのに俺は今、最後のひとつを前にして立ちすくんでいる。
優しくて人の気持ちを思いやれる紗弓は、きっと俺の態度の変化を察しているだろう。
早く安心させてやりたいのに、俺はまた〝嫌な奴〟に成り下がっている。
ハッキリとした答えが出せないのに本能のまま紗弓に甘い言葉をかけ、触れたい気持ちを我慢できない、中途半端な男に――。