天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
そこで目にしたのが、怯えきった紗弓に迫る元同僚、青桐の姿だった。
その時俺の中に沸いた感情は、正義感より嫉妬心の割合の方が大きかったと思う。
前日のアフタヌーンティーでも少なからず紗弓に惹かれてはいたが、彼女との関係を始めてはいけないと自分を制していた。
しかし、他の男に言い寄られている彼女を目にしたその時は、本能が理性を凌駕した。
――汚い手で彼女に触るな。
全身の血液が沸騰するような怒りを覚えるとともに心の中でそう呟き、ふたりの間に割って入る。
婚約者だと言ったのは青桐をけん制するための方便だったが、口に出した後で、本当にそうであったらいいと願う自分がいた。
結婚なんて一生縁がないと思っていたのに、青桐に取られるくらいなら彼女を俺のものにしてしまいたいと思ったのだ。
両親を失ってから初めて、ひとりの女性に執着を覚えた瞬間だった。
その衝動に従うように彼女と結婚したが、自分が家族を持つことに複雑な思いが伴うのも事実。
心の中で相反する感情をごまかすため、契約結婚であることを強調した。