天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
それでも同じマンションで生活していると、ふとした瞬間、紗弓への想いが溢れてしまう。
そばにいれば抱きしめたいし、キスだってしたくなる。その先を求めて昂る欲情をこらえた夜も、一度や二度ではない。
素肌を合わせて抱き合い、愛してると告げられたらどんなにいいだろう。バレンタインの日に紗弓が欲しいと言ったのも、我慢の限界が近いからだった。
それなのに、今日両親の墓の前で手を合わせてじっと目を閉じる彼女の横顔を見ていたら、また迷いが生まれてしまった。
さっき真路さんに話したように、紗弓に俺を失わせたくないと、そう思ってしまったのだ。
「誰のことも悲しませたくないなら、やっぱり家族なんて持たない方がいいんでしょうか……」
振り出しに戻ったように、つい弱気な発言が口から出る。明日は乗務が入っていないからと少し飲みすぎたかもしれない。
「それは違うだろ」
真路さんが、ほとんど間髪入れずに言う。
「どうしてですか? 家族を作らなければ、どんな事故に遭おうと一匹狼のようにひとりで最期を迎えられ――」
「お前が死んだら俺は悲しいよ、露木」
小首を傾げてこちらを見つめる真路さんは、少し寂しそうな目をしている。胸に小さな痛みが走った。