天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「香椎さんも杏里さんも、他のクルーもみんな悲しむ。お前がいくら孤独になろうとしたって関係ない。俺たちの心の中に、露木嵐という人間はもうあたり前のようにいるんだ。おそらく紗弓さんの心の中には、もっと大きな存在としてお前が生きてる」
真路さんの力強い言葉は、心の深いところに落ち、染みわたっていく。
俺が、いくら孤独になろうとしても関係ない……。今さら関わりを絶とうとしたって、紗弓の中にはもう俺がいる。
家族だとかそうでないとか、俺たちの関係性につけられた名前なんてどうだっていいのだ。
……なぜ、俺はそんなあたり前のことに気づけなかったんだろう。
逆の立場だったら、この胸の中から紗弓を追い出すことなんて、決してできやしないのに。
「真路さん、ありがとうございます。……俺、帰ります」
紗弓の顔が見たい。彼女を見つめ、俺はもう迷わないと伝えたい。
「ああ、それがいい。紗弓さんもきっと待ってるよ」
お礼の代わりに会計は俺が払い、バーの扉を押す。
外に出た瞬間息が白くなるほど気温は低かったが、あふれんばかりの紗弓への想いが胸の内で燃えているせいか、不思議と寒さは感じなかった。