天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
表情が曇ったように見えたのは気のせいか。
言われるがままに腰を下ろすと、露木さんもコートを脱いで私の正面に座った。
「ここの中華アフタヌーンティーが気になっていたんですが、二名からしか予約できないのでいい機会でした。今日は楽しみましょう」
昇さんから、露木さんは女たらしだという話を聞いている。だから、こうしたお店もよく知っているのだろう。
父の前では女性にだらしない面を隠していたらしいから、外面を取り繕うのもきっとお手の物。騙されないようにしなくちゃ。
「ええ、とても楽しみです」
警戒心を張り巡らせながらも、とりあえずは友好的に微笑んでみる。
「実は僕、甘党でして。紗弓さんは?」
名前の呼び方も、ごく自然でさりげない。私も甘いものは好きだけれど、食いつきたい気持ちをぐっとこらえる。
「それなりですかね。昔から『道重堂』の和菓子は好きですけど」
「ああ、道重堂なら僕のいたカナダでも人気でした。紗弓さんのいらっしゃる第三ターミナルにも、確か店舗がありましたよね」
「ええ、そうなんです。疲れた日なんかはつい店に寄って季節の生菓子を……」
ぺらぺらと喋っている途中でハッとする。
大好きな道重堂の話だったからつい乗せられてしまった……。