天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
そこでちょうどドアが開き、スタッフが中国茶のセットと食事を運んでくる。
中国風の木製飾り棚に色とりどりのスイーツや春巻きが並び、竹材の蒸籠の中では中華まんじゅうや小籠包がほかほかに蒸されている。
美味しそう……。声に出さずに思いながら、露木さんとの会話に戻る。
「私の職場のことは父からお聞きになったんですか?」
「……ええ。青い鳥ラウンジでレセプションをされていると」
ほんの少し悩んだような間があった。けれど気のせいかと思うくらいの一瞬で、露木さんはすぐに話を進める。
「社内では鬼と呼ばれる香椎さんでも、紗弓さんの話をする時だけは目元が緩みます」
「お恥ずかしいです……。どうも、私に対して過保護すぎるところがあって」
苦笑して、ガラスの器に入ったお茶に口をつける。
スタッフの説明によると、烏龍茶の中でも香りのよい黄金桂という品種だとか。ひと口飲んだだけで、爽やかな香りが鼻に抜けていく。
「なるほど。その過保護の延長で、結婚相手までお父さんが決めようとしているわけですね」
露木さんが、おかしそうにクスクス笑う。父に気に入られようと媚を売るタイプだと思っていただけに、調子が狂う。
さっき父を〝鬼〟と表現していたのも意外だったけれど、会話を盛り上げようとしているだけかな。