天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 俺たちの間に気まずい沈黙が流れる。しかしその直後、コックピット内に警報音が鳴り響いた。

 コックピット前方、システムの異常を検知するボタンがオレンジ色に点灯し、与圧系統の異常を知らせていた。

「急減圧……ノア、マスクをつけろ」

 ボタンと共に点灯している表示を見る限り与圧系統のバルブに不具合があるようだが、すぐに直せるものではない。

 このままでは機内の気圧が急激に下がり、酸素が不足してしまう。

 酸素マスクをつけなければ十五秒から三十秒程度で意識が混濁し、命に係わる事態になる。
 
 自動で降りてくる客室の酸素マスクと違い、コックピットでは自ら取り出してつけなければならない。当然ノアもわかっているはずである。

 しかし、彼女は呆然としてマスクをつけようとしない。

「しっかりしろ!」

 強い口調で呼びかけ、ようやく彼女はハッとしたようにマスクをつける。直後、客室の涼野さんから連絡があり、乗客全員がマスクを装着し、意識もあることを知らせてくれた。

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