天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
酸素マスクが使用できる十数分の間に高度を下げれば、マスクは不要となる。
落ち着いて対処すれば問題のないトラブルだ。
しかし、このまま目的地の伊丹へ向かうことは困難と判断し、管制にエマージェンシー(緊急事態)を宣言し、羽田への緊急着陸を要請した。
「緊急降下ののち、高度を保って羽田に戻る。I have control.」
ノアに操縦の交代を呼び掛けるが、返事がない。マスクは装着しているものの、彼女は恐怖のためなのか小刻みに体を震わせていた。
「ノア?」
「どうしよう、嵐……私たちのパパとママの事故もこのトラブルで、パイロットがふたりとも意識を失って、それで……」
彼女の言うように、俺たちの両親の命を奪った『パシフィックスカイ航空704便墜落事故』の原因も、急減圧だった。
異常に気づくのが遅れた操縦士がふたりとも意識を消失し、コックピットが無人と同じ状況になってしまったのである。
そして巨大な機体は、コントロールを失った――。
しかし、パイロットとして知識と経験を深めた今ならわかる。トラブル時の対応を間違えさえしなければあのような事故にはならない
現在のノアのように、パニック状態に陥ることが最も危険なのだ。