天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
俺たちはマスクをつけているし、緊急降下する時間も十分にある。
ノアも落ち着いた状態なら慌てる必要がないとわかるはずだが、今は事故当時のショックが蘇っているようだ。
だからといって、彼女の回復を待ってやれるほどの余裕はない。
俺は客室にアナウンスを繋ぎ、搭乗客に向けてこれから緊急降下して羽田にエアターンバックすることを告げる。
不安な乗客たちのフォローは、涼野さんたちCAに任せるしかない。俺たちパイロットは、とにかく安全を確保することが先決だ。
「ノア、落ち着け。俺たちは誰のことも死なせない。もう一度言うぞ。――I have.」
「嵐……」
カタカタ震えたままの彼女からは『You have.』のひと言が引き出せそうになかった。
俺は自分の判断で操縦桿を掴み、エンジンの出力を下げる。スピードブレーキを引き、速度が上がりすぎないよう主翼のスポイラーを立てた。
緊急降下とはいえ乗客に不必要な恐怖を与えたくはないので、なるべく揺れが伝わらないよう注意深く高度を下げていく。