天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
そうして飛行高度が一万フィートまで下がったところで、乗客のマスク着用を解除した。
アプローチ管制の指示に従い、羽田上空へと戻ってくる。滑走路が近づきタワー管制に切り替わると、緊急着陸を指示してくれたのは偶然にも友人の広瀬だった。
エマージェンシーを宣言した機体は着陸が優先されるため、彼の指示でまっすぐ滑走路へと下り立つ。
広瀬は淡々と管制を終えると、最後にボソッと「お疲れ」と添えてくれた。
到着と同時にけが人の有無や振替便の手配状況などを確認し、ようやく肩の力が抜ける。
どうやら被害は最小限で済んだようだ。
これから原因究明のための聞き取りがあるとは思うが、それが終わったら紗弓に連絡しよう。
張り詰めていた緊張がほどけたせいか、無性に彼女と会いたかった。
「待って、嵐」
先にコックピットから出ようとしていた俺を、ノアが呼び止める。それから思いつめた顔で背中に抱きついてきた。
「さっき、空の上でなにもできなくなった時に思ったの。私はやっぱり、嵐がいないとダメ。昔みたいに支えてほしいのよ。そうでなきゃ、パイロットを続けられない。……あなたのことが好きなの」