天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
今にも泣き出しそうに、声を震わせて訴えるノア。先ほどのトラブル発生時、彼女の精神的負担は相当なものだったのだろう。そのつらさは理解できる。
しかし、他人の支えをあてにするようでは、遅かれ早かれ彼女はパイロットとして行き詰まる。
教官の指示に従えばよかった訓練生の頃とは違い、俺たちはプロとして、ひとつのフライトごとに何百人もの命を預かっているのだ。
今の彼女には、その自覚が足りない。
ゆっくり体の向きを変えて彼女と向き合うと、腰に回された彼女の手をそっとほどいた。
「俺は、きみを友人として励ます以上のことはできない」
「そんな……」
「それと機長の立場から言わせてもらうなら……きみはパイロットに向いていない。急減圧のトラブルのたびご両親の事故が頭をよぎるなら、いっそやめるべきだ」
機長と副操縦士に上下関係はあるものの、副操縦士も立派なパイロットである。
あの状況で自分の酸素マスクをつけることすらままならなかった彼女は、いつか乗客のこともクルーのことも、危険にさらす。